雨の日の宿で(後編)
どのくらいそうしていたかわからない。
やっと気が済んで、唇を離した。
「はぁ…はぁ…、はぁ…」
ティファが目の端に涙を滲ませ、ぐったりしている。
その様子を見ながら、口元の唾液を手の甲で拭って起き上がった。
「疲れたか?」
「……もう、クラウド」
俺の唾液でぬらぬら光る乳首を名残惜しげに見つめると、タンクトップをぐいと引っ張り元の位置に戻した。
「…?」
行為の最中に乱れた服をわざわざ直すなんてことはしたことがない。
不思議そうにするティファだが、その真意はもちろん。
ーーできるだけティファのこの姿のまま、抱きたい。
特別なんだ。ティファのこの姿。
子どもの頃からずっと想っていたティファと、初めて長く一緒に過ごすことになったあの旅の間。
守ったり守られたり、一緒に困難を乗り越えようともがき、ティファへの気持ちはより濃いものになった。そしてティファはますますかけがえのない存在に。
そして旅の終わりに初めて想いを重ね合わせた。
それから程なくして、ティファは服を変えた。
たくさん、思い入れがあるんだ。
うん。汚すんじゃない。
もう一度この姿のティファを愛したいんだ。
一人納得して大きく頷いた。
「……そんなにこの服、好きだったの?」
半分見透かされて、聞かれた。
「ああ。好きだ」
腹部にキスを落としていく。
ヘソの周りを舌で一周し、下に向かって行く。
ティファの呼吸にわずかに上下する腹部を通過して、黒い革のプリーツスカートにたくさんキスをした。
「……」
少々困惑した様子で見つめてくるティファには、服に執着する変態みたいに映っているだろうか。
ちょっと、違うんだけどな。
「……ティファ、あのな。違うぞ。この服が好きなんじゃない。この服のティファが、好きなんだ」
下手な弁解をする俺にクスリと笑うティファ。
「よくわからないけど…大丈夫だよ」
そう言ってこんな俺を受け入れて許してくれるティファに思わず顔が緩む。
「……」
あと、正直なところ、現在26歳の俺が20歳の頃のティファを抱いているみたいで興奮する。
…これは言わないでおく。
再びスカートの中に顔を埋めると、脚の付け根にたくさんキスをした。
くすぐったそうに腰を揺らすティファの下着に指をかけ、引き下ろされたままのスパッツと同じ場所までゆっくり引き下ろした。
すると透明な粘液がつぅ、と伸び太腿に張り付いた。
「……」
ティファが濡れているのを見ると、欲情が加速する。止めようがなくなるのを毎度感じる。
「ティ…ファ」
跳ね上がる情欲。
こうなったらもう止められない。
体が勝手に動くに任せて、むしゃぶりついた。
溢れる愛液を舐めとると、次は刺激を送ることに夢中になる舌。
「あっ、ん…んんん…!」
顔を挟んでくる太腿をぐいと大きく開かせ、そのまま固定する。
無防備に露出したそこはより敏感になるのを、俺は知っている。
「はぁ、はっ、ああぁ、あっ、はぁっ」
ティファの息が大きく乱れ、気持ち良さそうな喘ぎが混ざる。
ああ…この声。
ティファの可愛い声がこんないやらしい音域で耳に入ってくることにゾクゾクする。
いつもの落ち着いた口調とのギャップがたまらない。
これも、当時の俺が見て声を聞いたら脳みそが吹っ飛ぶどころじゃないだろうな…なんてぼんやり思いながら視線を上げると、当時の姿のティファ。
…ドクン。
「や…クラウド…!それ、ダメ…!」
瞳を快楽に潤ませながら喘ぐ、白いタンクトップと黒いミニスカートのティファ。
じっと眺めながら、跳ねる腰を両手で押さえ丹念に舌で愛撫していると目眩がしてきた。
「…ああ……ああ、ヤバいぞ、これ…ティファ」
クラクラして思わず手のひらで額を押さえた。
「……ん…?どう…したの?」
息を乱したティファが少し心配そうに聞く。
「この服……やっぱり、興奮する…」
「……!もう…クラウドの、変態…」
ティファが不安気に服を隠すような仕草をした。
「違うんだ。ただ、あの頃のティファを抱いているみたいで…」
変態とまで言われてしまった。
でもこんな蕩けそうな顔したティファに言われると、なんだか逆に興奮してしまう。
……やっぱり変態なのかも。
「好きだったんだ。ティファ」
自分を取り戻す前も、後も。
ずっとティファを求めていた。
「………」
俺の真剣な目をみて徐々に非難の色を薄めたティファが、思いついたようにパッと目を輝かせた。
「あ…そうだ。じゃあ、わたしもお願いしようかな」
「ん?何を」
「クラウドも着て?あの頃の服」
思いもよらないお願いに目を丸くした。
「俺も?」
「うん…」
頬を赤くしてもじもじするティファ。
「ダメ?」
「いいけど…何か嬉しいのか?」
「クラウドが言う?それ…」
ティファがしきりに耳元を触ってもじもじしている。
「だって……わたしだって、好きだった。それに…初めてのときの…」
ティファがカァと頬を染めて俯く。
「……ああ」
なるほど。
「ちょ、ちょっと待ってろ」
「う、うん…」
引き出しの奥から引っ張り出して、懐かしいタートルネックに頭を通す。
「肩当ても付けるのか?」
「うん!」
正直面倒だが、ティファの目が輝いているので文句は言わないことにする。
防具入れから取り出して、肩当てや革のサスペンダーなど装備を整えた。グローブはしない。ティファに触れないからな。
振り向くと、いつの間にかベッドの上で座っているティファが嬉しそうにこちらを見ていた。
「わぁ…。クラウドだ」
「俺はいつだってクラウドだ」
おかしそうにクスクス笑うティファ。
ティファの前に座ると、楽しげに俺の全身を眺めてくる。
「懐かしいな。なんか、クラウドの気持ちわかっちゃった」
「そうか?」
「うん」
微笑むティファとベッドの上で見つめ合う。
「………」
「………」
二人してあの時の衣装を着て、見つめ合う。
「………」
「………」
ティファからだんだん微笑みが消えて、かわりに紅潮してくる頬。
「……あれ?」
「……」
「わたし達、なんだかすごく変なことしてる…?」
「………そんなことない」
確かに、ずいぶん恥ずかしいことをしてる気がしてきた。
二人で初体験の再現をするかのような。
うん。確かに恥ずかしい。
……だが、やめたくない。
「ティファ、大丈夫だ」
ティファをそっと抱き寄せた。
「うん…」
見上げてきたティファは、すぐに視線を落とし、懐かしげに俺の服を眺めた。
サスペンダーをつぅ、と指で撫でたり、ベルトの紋章を指でなぞったり。
指先が色っぽくて、思わず見惚れていた。
いたずらっぽい笑みを向けてきたかと思うと、ティファがタートルネックを伸ばし、俺の鼻下まで持ってくると布越しにキスをしてきた。
モフッ。
エヘヘ、と言わんばかりのティファのいたずらな笑み。
「………」
真顔で見つめる俺に、それを引っ込めていくティファ。
「……あれ?えっと…クラウド?」
ティファはこうやっていつも無自覚に火をつける。
自分のあまりの可愛さにこっちがおかしくなるなんて、想像すらしないんだろうな。
「きゃ!」
文字通りティファを押し倒すとベッドに押さえつけた。
「あの時は俺に部屋に連れ込まれなくてよかったな?」
「え…!?」
「今日はあの日の分まで抱くからな」
「あ、あぁ、あっ、あっ!」
「ティファ……ティファ…!」
止まらなかった。
まだ、穢したくないという感覚が残っているけれど。
それ以上に魅惑的で愛おしくて。
黒いスカートを履いたまま挿入を許すティファの姿はあまりにも官能的で、理性を失わせた。
突き上げる度に揺れる短いプリーツスカート。
興奮に、呼吸がおかしくなりそうだった。
「はーっ、はーっ、はぁ…ティファ…!」
いつも以上に目がギラついているのが自分でもわかる。
そんな俺に見つめられ、少々怯えた目をするティファ。
「や…クラウド…!待って…!」
「大丈夫だティファ……ひどくしない」
大切なんだ。痛いことなんてしない。
ただ、愛情と欲望が塊になってティファに向かっていく。
「ティファ…」
名を呼ばずにいられない。
自分で呆れるほど何度も。
こうして当時の姿のティファを抱いていると、自分がどんなにティファを好きでいたかを痛感する。
もう布越しにキスをしなくていい。
一人悶々と眠れぬ夜を過ごさなくていい。
ティファの肌に触れて抱きしめていいんだ。
今ある現実に改めて感謝する。
「好きだ……ティファ」
「……クラウド」
喘ぐティファの顔から目が離せぬまま、腰を振り続けた。
煩わしくなり防具を取り払うと、再び動き始めた。
ああ、気持ちいい…。
ティファも、この上ないくらい気持ちよくさせてやりたい。
それ以外何も考えられなくなる。
「あっ、クラウド…服、汚れちゃう…」
「え?」
揺さぶられながら、ティファが俺のタートルネックの裾をつかむ。
「ああ…」
少し長めの裾がベタベタになった二人の結合部の近くで揺れていた。
汚れてもいいが、確かに邪魔だった。
裾をぐいと引っ張り口に咥えて、再び腰を振った。
落ちないよう歯で噛みながらティファを見ると、あまり見たことがないようなポワンとした表情で固まっていた。
「…?」
目の奥がハートになっているようなティファを不思議に思いながら揺さぶっていると、急にぎゅうぎゅうキツくなっていくティファの中。
「う!?く…」
「あ…やだ、あ…!」
ティファが急速に絶頂に向かい始めたのを感じとって、突きを激しくしていく。
「あ、あ、あ、や…だ…!クラウド…!やっ…いっちゃ…!」
「ふっ…ふっ…!」
服を咥えたままくぐもった息を吐く。
自分はまだいかないように。
白いタンクトップの胸をせわしなく上下させて身悶えるティファを激しく突いた。
ああ…この姿のティファがイクところが見たい。
見逃さないように、見つめた。
「だめ、だめ…あ……あ………」
快楽に焦点がズレるティファの瞳が閉じられたと思うと、唇から泣き出しそうな甘い悲鳴。
「あーーーー……」
脳が溶けてしまいそうなティファの声を聞きながら、仰け反り、激しく締めつけてくるティファの体を突き続けた。
「う…く、…」
ティファの絶頂が収まっていくのと合わせて、ゆっくり腰を止めていく。
ティファの体からぐったり力が抜けたところで、ずるりとティファの中から引き抜いた。
……この瞬間がいつもいやらしいな、と思う。
「はぁ…はぁ…」
横に寝転びながらティファの汗ばんだ額を撫でる。
「どうしたんだ…ティファ?」
「はぁ…はぁ…」
まだ反応できないティファの顔をじっと見る。
ぐったりした様子で眉尻を下げて目を閉じたティファは、胸が痛くなるほどに愛しい。
ティファがうっすら目を開けた。
「……わからない。けど…なんかね」
「うん」
「わたし…自分で思ってたより、クラウドのその服が好きみたい…」
「……」
「あのね。クラウドがその服着て…服を口に咥えて捲し上げてるのが…すごく」
「……」
「………すごく、エッチだなって…思ったら」
「………」
「………」
それ以上は言わずシーツで顔を隠すティファ。
「…ふぅん。そうか」
そういう感覚。
女にもあるのか。
「じゃあ…次はティファがエッチなことするんだぞ」
「もう…なにそれ」
シーツから目だけを出すティファ。
そのシーツを引き下げ、ティファの唇を出すとそこにキスをした。
「ん…」
まだ力の入らない様子のティファとゆっくり舌を絡めた。
可愛いな。
ティファの仕草、言葉、表情。全てが俺のツボを突いてくる。
いつだって欲しくてたまらなくさせる。
「ティファ…」
唇を離し腰のあたりをもの欲しそうに弄る俺の手に眉尻を下げるティファ。
「……いいよ?」
「……」
コクン。
ちょっと無理させるようだけど、我慢ができずお言葉に甘えて頷く俺に笑ってくれるティファ。
ああ。
俺は幸せ者だな。
それからは、あっという間だった。
ティファが自分でタンクトップを捲し上げたおかげで、すぐに果ててしまった。
自分で白いタンクトップから乳房を出して、「さわって…」なんて言うから。
初めて見る光景に、あっという間にだった。
息を弾ませて抱き合い、呼吸と心が落ち着いてから見つめ合う。
「…ふっ」
「ふふふ」
お互いいつもより早かったことに笑ってしまう。
「なんか…おかしいな」
「うん。おかしいね」
「……」
「……」
大きくゆっくり息を吐いた。
汗ばんだ肌をくっつけて、心地よい疲労感に目を瞑るこの時間が俺は好きだ。
「……なぁ、ティファ」
「ん?」
「実は今日、ティファに土産があるんだ」
「え?お土産?」
「ああ」
起き上がると、腕を伸ばし引き出しにしまっておいた包みを取り出した。
繊細な色をした紙に包まれた小箱に目を丸くするティファ。
「わぁ。なんだろう」
「開けて」
「うん」
わくわくした様子で包みを開けるティファを目を細めて眺めた。
箱を開けて中を見た瞬間、ティファから笑顔が消えた。
そして、みるみる溢れてくる涙。
「覚えてるか?」
「………覚えてる」
細く繊細なチェーンにティファのピアスに似た雫型の小さな光る石がついたネックレス。
「ごめんな。ずいぶん遅くなった」
「…ううん」
瞬きしたティファの瞳から涙が流れた。
「嬉しい」
ティファの泣き笑いにこちらも微笑むと、ネックレスを取り出して止め具を外した。
「髪」
「うん」
髪をかき上げ押さえたティファの首に腕をまわし、ネックレスをつけた。
「…うん。思った通り、似合う」
満足気に頷くと、ティファの瞳からまた涙が流れた。
「クラウドって、ちゃんと約束守ってくれるね」
「……いつも遅いけど、な」
ぎゅうと抱きついてくるティファ。
「ありがとう」
「うん…」
「大好きよ、クラウド」
しっかり抱き返すともう一度ティファが呟いた。
「大好き…」
俺は、それよりももっと。
ティファを愛してる。
キザに聞こえるかな?なんて言おうか少し迷いながら、目を閉じた。
窓の外では、あの日よりも優しい雨が降っていた。
FIN
クラウドとティファには、2人きりの時間はこうやってイチャイチャチュッチュ、イチャイチャチュッチュ、イチャイチャチュッチュして幸せに過ごしていて欲しい(笑)
リメイクの後で未来がどう変わっていくかわからないけど、二人の結末はこうなることを信じてる。