ほんとのところ(中編その2)

 

今日の朝食は、最近我が家のブームになっているテリヤキチキンのホットサンド。
昨日作っておいた照り焼きチキンとスライスチーズ、レタスと茹で卵を食パンの上に乗せていく。マヨネーズを軽く絞りながら、考えていた。

朝から考えるようなことではないとわかっているんだけれど、考えずにいられないから。

なんであんなことをしたの?
昨晩、わたしを高めておいて、いきなり置いていっちゃうなんて。
突然放置されて身体が辛くて、思わず可愛くない態度をとってしまったけれど。
明らかに怒っているわたしに謝ることもしなかったクラウドの、今朝の可愛い寝顔の頬をつねりたくなる衝動を抑えて起きてきた。

ひどいよ、クラウド。
ひどいけど…きっと理由があるんだよね。
やっぱり、多過ぎるってクラウドも思って我慢したの?
途中で嫌になっちゃったわけじゃないよね?
だってクラウドの…
見ちゃったけど……すごく大きくなってた。

「おはよう、ティファ」

「ひゃっ!?」

「ど、どうした」

飛び上がるわたしに目を丸くするクラウド。

「び…びっくりした…!おはよう、クラウド」

声をかけられたときの思考が疚しかったせいか変な汗が出てきて、パンに挟む具材を掴む手がギクシャクする。

「…ティファ?」

「ん?」

振り向いたわたしの目を伺うように覗き込んでくる。

「…うん。なんでもない」

安心したように目を和らげてテーブルに向かうクラウド。
あ。
今、わたしの目が怒っていないか確認したんでしょ?
クラウドはずるい。
本当はまだ少し怒ってるのに。びっくりして怒るのを忘れてただけなの。

少し控えようかなと思うのはわたしも同じ気持ちだけど…こんなやり方しないで。

 

 

 

「美味しい?!」

口いっぱいにホットサンドを頬張ったマリンとデンゼルが幸せそうに微笑む。

「朝ごはん、やっぱりこれが一番好き!ティファ、明日もこれにしてね」

「えー明日も?飽きない?」

「全然!」

「はいはい」

子ども達の美味しそうに食べる姿に自然と顔がほころぶ。
あっという間に平らげたクラウドはマリンの隣でコーヒーを飲みながら、デンゼルを眺めていた。
その瞳が優しくて、クラウドも子ども達を可愛いと感じているのが伝わってきて胸が温かくなった。

「クラウド、おかわりする?」

「ん?いや、いい。うまかった」

「うん。よかった」

「俺おかわり!」

デンゼルがすかさず手を上げた。

「わたし、半分おかわり!」

続いて手を上げるマリン。

「はーい、ちょっと待っててね」

おかわり用に作っていたホットサンドの焼け具合を見にキッチンに向かうと、クラウドは支度をしに洗面所へ向かった。

 

 

 

 

「いってきます」

子ども達がスクールに向かった少しあと、クラウドも出発しようとしていた。

「いってらっしゃい」

子ども達が先に家を出た朝は、必ずここでキスをする。今日もあると思ってクラウドの近くに立ち、それを待っていた。

「…いってきます」

もう一度言うと、クラウドはふと背を向けた。

(…え…?)

寂しさが込み上がってきたけれど、何も言えないままクラウドの背中を見送った。

以前、クラウドが慌ただしく家を出たとき、忘れもののキスをしにわざわざ戻ってきてくれたことがある。
再び走り去って行くクラウドの背中を見送りながら、照れ臭くて嬉しくて、顔がニヤけてしまったことを思い出す。

あれ、嬉しかったな。

なのに、今日はこんなにも寂しい。
うっかり忘れて、そのままだなんて。
やっぱり最近多かったし、わたしに飽きてきちゃった?

 

 

 

 

 

 

その日を境に、クラウドは全くわたしに触れてこなくなった。

今まではあたりまえのようにあったただいまのキスも抱擁もなし。日常に散りばめられていたスキンシップがピタリとなくなった。
もちろん同じ時間にベッドに入っても、キスもしないで眠りにつくだけ。
優しい瞳でわたしを見つめて髪や頬を撫でてくれることもなくなってしまった。

どうして?
戸惑うほど求めてくれていたのに。
まるで女としてのわたしに唐突に飽きてしまったみたいだった。

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

少し勇気を出して近づいてみた。
寂しがってるだけじゃなく、自分から動かなきゃと思ったから。

「クラウド…」

腕を伸ばしかけたとき、明らかにビクリと退くクラウド。

「……」

…どうして?
傷ついて見上げると、クラウドは何か思い詰めたような顔をしていた。

「ティファ、悪い、まだ仕事が残ってるんだ。部屋に行く」

逃げるように階段に向かうクラウド。

「…ごはんは?」

「いらない。外で済ませた」

「…いらないなら、連絡してよ。作っちゃったじゃない」

「……悪かった」

背後で響く階段を上る音を聞きながら、鼻の奥がツンと痛んでくることにグッと耐えた。

 

何も思いあたらないの。
なんでこうなっちゃったのかわからないの。
とっても仲良しだったのに。

しばらく前に、お風呂上がりに二人手を繋いで寝室に向かったときのことを思い出した。
階段を上りながら二人でふんわり微笑みあったときに感じた幸福感がよみがえり、鼻の奥の痛みが強くなって涙が滲んだ。

 

 

 

 

 

今日からクラウドは二日間帰らない。
いつもだったら名残惜しくて少し長くなるいってらっしゃいのキスも、今日はきっとしない。

「行ってくる」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

仲良しだった頃より、少し離れた場所で見送る。

「……」

グローブの裾を引っ張り手に馴染ませながら、クラウドは少し眉を寄せてわたしを見つめてきた。

「ティファ」

ゆっくり数歩近寄ってきたクラウドの手が、優しく髪を撫でた。

「…っ」

でも、込み上がってきたわたしの涙を見る前に、クラウドは背を向けてしまった。

「3日後に帰る」

「…うん」

遠ざかっていくフェンリルの音を聞きながら、流れずに済んだ涙を指先で拭った。

 

 

 

 

その日の深夜、明日のメニューの仕込みをしながら見るともなくつけていたテレビから、突然艶っぽい声が聞こえてきた。
びっくりして目を上げると、映画のラブシーンが始まっていてベッドの上で男女が激しく絡み合っていた。

「わ…!」

こういう映像を見ることに慣れていないため思わず消そうとリモコンを手にとったけれど、伝わってくる情熱に思わず動きを止めて見入ってしまった。

愛してると囁きながら激しくキスをして体を弄る男性の姿に、不覚にも胸が高鳴る。
どういう状況かわからないけれど、女性は涙を流しながら応えている。
激しくていやらしい息遣いと、二人分の喘ぎ声。
子ども達が音で起きたらどうしようと心配になりつつ、リモコンを手に持ったまま最後まで見てしまった。

 

その後はぼんやりとしつつ仕込みを終わらせると、ぼんやりしたままベッドに入った。

ずっと思い出しているのは、やっぱりクラウドのこと。

もうずっと見ていない、ベッドの中でのクラウド。
見ているだけで心拍数の上がってくるような熱っぽい瞳でわたしを見つめて、毎晩のようにあんなふうにわたしを抱いていたクラウド。
ううん、さっきのテレビの男性より、クラウドの方がもっと情熱的。
愛しくて辛いって訴えてくるような必死な視線を受けて、わたしはいつも幸せになっていた。

ねぇ、クラウド。
寂しいよ。

目を閉じて、クラウドの手を思い出した。

胸に触れるときの、クラウドのクセを真似しながら自分の胸を触った。

「……」

自分の指なのに、クラウドに触られているような気持ちになってドキドキする。
クラウドはいつもこんなふうに指を動かす。
全部覚えてる。

「…ん」

クラウドの舌に弄ばれているときを思い出しながら触って、声が漏れた。

ダメだよね。
こんなこと、はしたないよね…。

でも涙がどんどん溢れて、止まらなかった。

クラウド、あなたがわたしの体を変えたんだよ。
気持ちのいいことをたくさん教えておいて、突然寂しくさせたクラウドのせい。

(…ティファ…)

ため息混じりで耳元で囁くクラウドの声を思い出して、胸が痛くなる。

「クラウド…」

聞いてもらえない応えを呟いて、もっと涙が流れた。

クラウドがするように、手のひらでお腹を撫でながら下に向かう。
下着の上から指を滑らすと、体の中に快楽の花が咲く。

「…っ」

クラウド。
クラウド。

クラウドがいつもわたしにすること。
わたしを感じさせようと一生懸命してくれること。

上がってくる呼吸を隠すように引き寄せた毛布から、クラウドの香りがした。
思わず大きく息を吸い込むと、胸が切なさで張り裂けそうになった。

「クラウド…」

名を舌に乗せるだけで、今はいい。
今日は、記憶の中のクラウドに抱いてもらうの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

装備を外し、こじんまりとした部屋の床に放り投げた。

「ふぅ…」

久しぶりの外泊だ。
いつもは、見知らぬ部屋に一人いる夜は寂しさを覚えるものだが、今は気が楽だと感じている。

ティファに触れないと誓ってから三週間。
始めは気が狂いそうだったが、何もアクションを起こしてくれないティファに絶望し、今はある程度の慣れも出てきて意地になって続けている。

やっぱり、俺だけだったんだな。
ティファにとっては必要なかったみたいだ。
俺は…毎日ティファを腕の中に抱き、こんな幸福なことはないと思っていたのに。
男と女の差、なのか。

ティファに少しでも触れると、せっかく手に入れた「慣れ」があっという間に消えてしまいまた激しい苦悩が始まりそうで、ティファを避けるようになってしまった。
そのせいか、最近は二人の間にある空気がなんとなく重い。

「何やってるんだろうな、俺は」

本末転倒とはこのことか?
でも、本当は嫌だと思っているようなら、無理に抱きたくないんだ。抱かないためには我慢できる状況でいないと。
一体どうしたらいい。

軋むベッドに寝転がりぼんやりしていると、長い距離を走行した疲れのせいか、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

 

   クラウド。
    クラウド。

…ティファ…

   はっ… はっ…

ティファの甘い息遣い。

ティファ…!

柔らかなティファに体を擦り付けるように抱きしめて、激しく揺さぶっていた。
唇を合わせるのが心地よくてたまらない。

ティファ…!

   クラウド…

 

 

 

ハッと目が覚めた。
たった今浅い眠りの中で見ていた残像に、息が上がり思わず眉をしかめた。

…恋しい。
ティファが恋しい。
ティファの肌の温かさが恋しい。

いっそ気づかず、あのままの生活を続けていたかったとさえ思ってしまう。

のそりと起き上がると、ぼんやりした頭のまま、まだ入っていなかった風呂に向かった。

 

 

 

頭から熱いシャワーを浴びながら、ティファを想う。

好きだ、ティファが。
人には言えないくらいに。

ずっとずっと好きだったティファを、手に入れた気になって浮かれていた。
ティファも幸せそうな顔をしていたから、これでいいんだと思っていた。

寂しい。
ティファ…。

右手が自身を握った。

目を瞑って、何度も目に焼き付けたティファの姿を思い出す。
頬を染めて目を逸らすティファの、気持ちよさそうに歪んでいく顔。
可愛い形の唇から止まらなくなる喘ぎ。
下着の中に指を入れたときの温かいぬめりが毎回俺を歓喜させた。
ティファの弱いところを擦ったり。
指を挿し込んで、ティファの弱いところを何度も押し上げたり。
俺は知ってるんだ。

「はぁ…、はぁ…」

神羅兵時代、今みたいにティファを思い出しながら自身を慰めたことが何度もある。
机上のものとは言え、つけ始めた性の知識をティファに当てはめてしまい、後ろめたい気持ちに勝ってしまった。
あのとき想像していたティファはまだ幼く、ただただ恥ずかしがるだけ。それでもあの時の俺にとってはこれ以上ない程に刺激的な空想だった。

今の俺は、ティファの色んな姿を知っている。
俺しか知らない、ティファの艶かしい姿。

「は…、は…!」

思い出してた、なんて言ったら顔を真っ赤にして怒られてしまうような、今まで見たティファの恥ずかしい姿を目蓋の裏に映し出した。
たくさん、たくさん。

「うぅ…」

頭の中で火花が散り出す。

俺のものを深く包み込み、迫り来る絶頂に咽び泣くティファの声。
思い出すだけで…俺は…

「……ティ、ファ…」

達する瞬間。
ティファの名を舌で転がすと、快楽が膨れ上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

再び軋むベッドに寝転がり、妙な虚しさの中ぼんやりとしていた。
虚しさの点では、神羅兵時代のそれに勝る。

…このままなのか?

ティファが、いらないと言うならそれまでだと考えていたけれど。
それだけが幸せじゃないからいいんだと思い込もうとしていたけれど。
そんな単純な話じゃない。
いや、単純に俺はこのままじゃいられない。

もう分かり切っているティファの気持ちを聞くのは辛いけれど、一度話し合わなければ。

うん。
話し合いが足りないのは今まで何度か二人で反省してきた点じゃないか。
今こそ反省を活かすべきだ。

ただ。
本当は面倒臭いと思っていたと言われて、じゃあ週に一回か二回お願いしますと言うのか?
絶対に違うだろう!
妥協し合ってするものじゃないだろ?

一体、何を話し合えばいいのかが。
わからない……。

思考がぐるぐる回って始めに戻ってくる。
前に進まない悩みに大きくため息をついた。

ティファは、今俺がこんなにティファのことを考えているなんて、思いもしないんだろうな。

 

 

 

 


 

 

NEXT…coming-soon

 

クラウドさん!許しませんよぉ!?(フリーザ様より)
一人間違った方向に奮闘するクラウドが書きたかっただけなのにティファが可哀想な展開に…(/ _ ; )
絶対書かないと決めていた二人の自◯行為が入ってしまい色々と心配です、不快だった方には申し訳ないです。
ここまで読んで頂きありがとうございました?!

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