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フェチシズム(前編)

「フェチ」という言葉がある。
異性の体の一部や衣服、装具品に性的魅惑を感じることらしい。
神羅兵時代、同期の奴らが「鎖骨が好き」「耳たぶが好き」という自分は何フェチかという話で盛り上がっていたときも、何一つピンと来るものはなかった。
もちろん、男である以上、女性の体について興味は昔からあったし、胸元が大きく開いた服やミニスカートを着た女性に対し目のやり場に困るという、その程度の意識はあった。
ただ、個人的に特定の部位や服装にやたら反応してしまうということはなく、俺にはそんなものはないと思っていた。

 

 

「なぁ、クラウドって何フェチ?」

ユフィの招待により久しぶりに仲間がウータイに集まり、どんちゃん騒ぎが繰り広げられる中、酔ったユフィが唐突に聞いてきた。

「・・・お前まだ未成年だろ」

「はいは〜い、話を逸らさない!で、何フェチ?」

「・・・・・・」

だんまりを決め込むことにした。
酔ったユフィの相手なんか始めたら、ろくな事がないのはわかっている。

「おいっ!無視すんな!じゃあこのユフィちゃんが当ててあげよう。クラウドは〜〜黒髪ロングフェチ」

思わず片眉がピクリと動いてしまった。

「お、反応あり!大当たりだろ、な?」

確かに、好きだ。
でもたぶんこれは違う。

「いや、もしお前が黒髪ロングにしたとしても、俺は何も感じない。断言できる」

「・・・・・・・・・なるほど」

ムッとしつつ、据わった目で想像してみたらしいユフィは、すんなりと頷いた。

「じゃあ何かなー。絶対、クラウドってマニアックなフェチ持ってそうなんだよなぁ。まぁいいや、クラウドはティファフェチだティファフェチ」

かかか、と馬鹿にした笑いを溢しながらグラスを持ってどこかに行ってしまった。
言いにくい「ティファフェチ」を一語一語ハッキリ発音したあたりがまた嫌みったらしく聞こえて、なんとも憎たらしかった。

「・・・・・・なんなんだ」

とりあえず、うるさいのが居なくなりホッとしグラスに口をつけた。

(フェチ・・・フェチ・・・。やっぱり俺にはないよな)

「じゃあ、巨乳フェチ」

「わっ!」

いきなり声がして驚くと、またユフィが隣に来ていた。
さすが忍者娘。一瞬無駄に気配を消した。

「・・・・・・しつこいな。ティファが聞いたら怒るぞ」

「うわ、そうだ。やばっ・・・」

ギクリとティファを振り返るユフィ。
見ると、ティファはほんのりと酒に頬を染め、楽しそうに他のメンバーと話をしていた。

「ふぅ、危ない危ない」

ユフィは大袈裟に額の汗を拭う仕草をした。

以前、ユフィがティファの胸を「巨乳」と表現したとき、彼女はずいぶんとそれを嫌がった。
「その言い方やめて!」
ユフィにデリカシーがなくそれが男性陣の前だったこともあるのか、顔を真っ赤にして怒っていた。
「次言ったら鉄拳制裁よ、ユフィ!」
ティファは確かそう言っていた。

「嫌がってるんだから、もう言うなよ」

「ごめんごめん」

確かにティファの胸は魅力的だ。
だがそれは、ティファだから、なんだと思う。
言ってみれば、俺はティファの鎖骨も耳たぶも唇も、全部好きだ。
だがこれはフェチとは違う。

「俺は別に、胸が大きい女が特別好きなわけじゃない。俺には特にないな、そのフェチってものは」

微妙に声を落として話を続ける。

「ふーん。つまんないの」

「そういうお前はどうなんだ?」

「アタシ?」

「・・・いや、やっぱりいい。正直興味がない」

「うわ、出たよ!アンタその性格どうにかなんないワケ?」

「余計なお世話だ」

フェチなんて、誰にでも必ずあるものじゃないだろう?
部位や服装など普通は性的に興奮しないものに興奮するなんて、ある意味病気だと思う。
俺はいたってノーマルだ。

 

 

 

夜更け過ぎ、ティファとユフィと子供達は席を立ち、温泉へ向かった。
男だらけとなった宴会場はむさ苦しく、お決まりと言うかなんと言うか、話題はだんだんと下の方へ向かっていった。

「おぅ、クラウド。さっきユフィとフェチについて話してたろ。俺様に正直に告白してみろ」

相変わらずタバコの煙をまとわりつかせてシドがニヤニヤしながら言う。
俺はため息をついた。

「ユフィにもさっき言ったが、俺には、ない」

「ほんとか〜?男なら少なからず何かあるだろ?特にお前みたいなヤツは絶対マニアックなのがあるだろ」

「うるさいな。ほっておいてくれ」

先程のユフィと同じようなことを言われ、ムッとする。
シドとバレット、リーブの3人は指が綺麗な女がいいだの、網タイツがセクシーだのと盛り上がっていたが、俺とヴィンセントは終始黙っていた。
ふと、興味が湧いて聞いてみたくなった。

「・・・ヴィンセントは?ないのか?」

ヴィンセントはグラスに落としていた視線を上げた。

「・・・・・・遠い昔のことだ。そんな感覚忘れてしまった」

「・・・そうか」

「お前は・・・確かに何かありそうだな」

ガクリと肘がテーブルから落ちそうになる。
まさか、ヴィンセントまで。

「な・・・なんでだよ」

「一度執着したらしつこそうだ」

ヴィンセントはそう言って微かに鼻で笑った。
反論しようとしたそのとき、スラリと襖が開く音がし、ティファとユフィが顔を覗かせた。

「じゃあアタシらは先に寝るから、よろしく。おっさん同士楽しくやっててよ。おやすみ〜」

「みんな、お先に。おやすみなさい」

「おぅ、おやすみ」

「おやすみなさい、ティファさん、ユフィさん」

俺は、ティファから目が離せなかった。
白地に茄子色のシンプルな模様が入った、見たことのない衣服を纏っていた。
湯上りの髪を束ね頭の上でお団子を作り、ほんのり朱に染まった白いうなじを曝け出していた。

「・・・・・・・・・」

胸から腹にかけて、ズドンと妙な衝撃。
いや、心臓を矢に射抜かれた感じと言うべきか。
とにかく、口を開けて見惚れてしまった。
ティファと目が合い、惚けた顔の俺に不思議そうに少し首を傾げた。
また、その仕草がなんとも・・・・・・いい。

「あ、やっぱりキタなコレ。クラウド、これはね、浴衣っていうの。色っぽいよね〜ティファ。が、残念!今日ティファはアタシと寝るの。ささ、行こ行こ」

ティファを隠すようにサッと襖が閉められ、二人の話し声と足音が遠ざかって行った。

「・・・・・・」

目に焼きつけたティファの残像を必死に思い出す。
しとやかな中に色気があり、なんとも艶かしい姿だった。
また、あまり晒されたことのないティファのうなじが、とても綺麗だった。
きちんと合わさっていた胸元をはだけさせたら、きっとこの上なく色っぽいんだろうなと想像が膨らんだ。
ぜひ着せたまま、抱きたい・・・。
浴衣というアレを乱して、うなじにキスをしながら片側の胸だけ覗かせて・・・などと妄想を加速させていると、ふと、皆の視線を感じた。
思考を現実に戻し、皆の目を見返すと、皆が一斉に視線をグラスに落とした。

「な、なんだよ」

「・・・浴衣フェチか。まぁ、思ったよりは普通だな」

シドが呟いた。

「俺が、浴衣フェチ・・・?」

確かに、ユフィの浴衣姿でさえ不覚にもなかなかいいじゃないかと感じた。
が、これがフェチなんだろうか。わからない。
とにかく、それから俺はもう一度ティファの姿が見たくて、そわそわし始めてしまった。

盛り上がる宴もよそに、俺は時計を気にしていた。
このままでは、ティファの浴衣姿をもう一度拝む前に明日の朝が来てしまう。
皆で集合する時には、普段の服装に着替えてしまっているだろう。
何かないか。いい口実は。
しかし、用事を思い出したと言ってティファに会いに行ったところで、ユフィと子供達がいる。
子供達はさすがに寝ているだろうが、きっとユフィはまだ起きている。
何もできないだけでなく、無駄なことを話す俺をティファの後ろから馬鹿にしたように目を細めて見ている姿がまざまざと目に浮かぶ。
・・・考えただけでイライラする。
こんなことならユフィにガブガブ酒を飲ませて潰しておくんだった。

「おい、クラウド」

シドに呼ばれ、ハッと我に返った。

「さっきからずいぶん上の空だな、オイ。まだティファの浴衣姿のこと考えてんのか?確かに色っぽかったなぁ」

「・・・うるさい」

「気づいてないだろうが、俺様も同じ浴衣着てんだぜ。見ろ」

シドが立ち上がった。
デロデロによれて、先ほどティファが着ていたものと同じ浴衣とは思えないほど、むさ苦しい。

「色っぽいか?ガハハ!ティファにこーんなことしてもらえ」

シドはしなを作りながら、浴衣の合わせ目から太腿から尻の側面を覗かせた。
筋肉質の太い足が、食欲をなくさせた。

「・・・汚いものを見せるな」

爆笑しているオヤジ達を尻目に、ため息をついた。
今ので浴衣のイメージが汚された。
目を浄化するために、今のシドの動きをティファに置き換えて想像してみた。
スラリとした白い足が布の間から現れ、柔らかそうな尻の膨らみまで布がだんだん捲し上げられて・・・
なるほど。
そんなものを見せられたら俺は秒殺だ。
どこかの誰かのように、飛び掛ると同時に自分の服を脱ぎ去っていそうだ。

やましい考えが止まらなくなった俺の横では、ナナキが平和な顔をして眠っていた。

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

「どこかの誰か」というのは不二子ちゃんに飛び掛るルパンです(笑)
クラティに置き換えて想像すると笑える!

前編は非常にぬるいので、表にも置いておきます。

 

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