Cold flame (中編)
数日後。
あの女の子のグループが来店した。
クラウドが店を手伝ってくれた同じ時間帯。
例の綺麗な子は前回よりもおめかしをしていてより一層華やかで、店の男性客の視線を集めていた。
体のラインが綺麗に出るワンピース。裾はふわりと広がっていてほっそりした脚がとても女の子らしかった。
「いらっしゃいませ」
店に入るとすぐに誰かを探すように店内をぐるりと見渡す彼女たち。
今日、クラウドはまだ帰って来ていない。
笑顔が崩れないように、気をつけた。
「ただいま」
閉店一時間前に帰ってきたクラウドは、書類の整理をすると言って早々に二階へ引き上げ降りてくることはなかった。
ウェイターとして戻ってくるのを待っていたのかそうでないのか、彼女たちは閉店と同時に帰っていった。
それから彼女たちは頻繁に店に通うようになった。
しばらくするとクラウドが帰宅する時間帯を把握したらしく、閉店一、二時間前から閉店ギリギリまで。
彼女たちがいる間にクラウドが帰ってくることはあったりなかったりまちまちだったが、姿を現わす度にそわそわ浮き足立つテーブル。
彼女は切なそうにクラウドを見つめていた。
必ずクラウドが勧めたカクテルを注文する彼女。
日に日に本気になっていく彼女の表情。
明らかにクラウドを目当てにして足繁く通う彼女たちにだんだんと強いストレスを感じるようになってきた。
今日は来ないといいな、なんて朝から思ってしまったり。
それでも何もできずにただ悶々としているだけの自分に嫌気がさした。
そんなある日。
閉店10分前。
最後の客である彼女たちのお会計をしていたとき、店の扉が開いた。
「ただいま」
近づいてくる足音に弾かれたように顔を向けた彼女の手元から小銭がバラバラと床に落ちた。
「あっ」
慌てて拾い集める彼女のそばにしゃがみ込み、手伝うクラウド。
「す、すみません!」
頭を下げた彼女の頭とクラウドの頭がコツンと小さくぶつかった。
「ああっ、すいませ・・・ん」
「いえ・・・」
可哀想になってしまうくらい顔を真っ赤にして頭を押さえる彼女に小さく笑うクラウド。
わたしの中で、何かがプチンと切れた。
拾った小銭を手渡し立ち去ろうとするクラウドに彼女が声をかけた。
「あ!あの!」
「・・・?」
振り向くクラウドを見て、彼女は目を伏せた。
「あの・・・少しお聞きしたいことがあるんですけど・・・ほんの少しだけ、お時間いいですか。あの・・・お店の・・・外で」
突然のことに驚いて返答に詰まるクラウド。
「ええと・・・。ここじゃダメですか」
「はい・・・すみません・・・」
俯く彼女のうしろで友人達が固唾を飲んで見守っている。
困ったようにこちらに目を向けるクラウドに、小さく頷くしかできなかった。
「・・・わかりました」
「あ、ありがとう、ございます・・・」
そこからはなんとも言えない空気。
申し訳なさそうにわたしと目を合わせられず俯いたまま会計を済ます彼女と、その傍らで無言で待つクラウド。
言葉少なに会計作業をするわたしは、クラウドの何に見えているんだろう。
一緒に暮らしているんだから、結婚はしていなくとも恋人だとわかっているはず。
それともただの同居人?親戚?
会計が終わり、わたし以外の全員が店から出て行った。
わたしは何も考えないようにして閉店作業を始めた。
程なくしてクラウドが帰ってきた。
手には一通のラブレター。
「おかえり」
無機質な自分の声。
「夕飯は食べる?お風呂にする?」
「・・・・・・何も聞かないのか?」
「うん、別にいい」
「・・・・・・・・・」
「どうする?」
「・・・・・・・・・風呂にする」
ムッとした顔で浴室に向かうクラウド。
わたしは黙々と閉店作業を進めた。
脱衣所でラブレターを読んでいるだろうクラウドの姿を想像しながら。
クラウド、どんな気持ち?
嬉しくてニヤニヤしてるの?
それともいつもみたいに無表情で興味ないねって言ってくれる?
あんなに綺麗な子だもん。嬉しくない男の人なんていないよね。
いいよ、付き合ってみたくなったなら、付き合っちゃって。
まだ結婚してないもの。
クラウドは自由よ。好きにすればいい。
頭の中で色んな思いがぐるぐる回る。
さっき、嫉妬なんかして馬鹿だなって抱きしめてくれればよかったのに、なんて理不尽にクラウドを責めたくなる自分に気づく。
このまま顔を合わせたら喧嘩してしまいそう。
手早く片付けを終わらせると自室に逃げ込んだ。
シャワーの音が止み、しばらくしてクラウドが寝室に入る音を確認してから一人浴室に向かった。
脱衣所には封の切られた手紙が置かれたままになっていた。
わざとなのか何なのか、文面が見やすく開かれていた。
「・・・・・・・・・」
そっと近づき目を通す。
恋人がいると思われるクラウドにこんな手紙を渡すことへの謝罪に続き、それを抑えられないくらいとても好きになってしまいどうしようもないということ。
許されるなら一度会って欲しいということと、連絡先が書かれていた。
「そっ・・・か」
手紙を封筒にしまうと、シャワーを浴びに浴室に入った。
クラウドの後だから、まだほんのり温かい浴室内。
熱いシャワーを頭から浴びた。
何を聞かれたの?何て言われたの?
クラウドは、何て答えたの?
気になることを素直に聞けばいいのに。
わたしという恋人がいるのに目の前で告白されたも同然の先程の場面。恋人なら怒って当然なのに、気にしてないフリするなんて。
素直に嫌だと叫べばいいのに、なんて可愛くないんだろうと我ながら思う。
階段を上がっていくと薄く開いた寝室の扉から灯りが洩れていた。
そっと開けると、クラウドがベッドに寝転がり携帯を見ていた。
ギクリとした。
(もしかして・・・あの子に連絡したの?)
ますます顔が強張ってしまうのを感じた。
「・・・おかえり」
こちらを見もせず呟くクラウド。
「・・・まだ起きてたの?先に寝ていいのに」
「ああ、そうしようと思ったんだけどな」
パタ、と携帯を傍らに置くクラウド。
あの子にメールしたの?何て送ったの?
返事は来たの?何て書いてあった?
聞きたい気持ちを抑えてベッドに入った。
「おやすみなさい」
「なぁ、手紙読んだか?」
背中を向けるわたしにクラウドが問いかける。
「・・・読んだ。これ見よがしに開いてるんだもの」
「で?」
「よかったね。あんなに可愛い子に好かれて」
「・・・ああ。そうだな」
胸が詰まる。
「・・・・・・やっぱり、可愛いって思った?」
「ああ、思った」
「・・・・・・・・・・・・よかったね」
「うん」
「会うの?」
「考えてる」
「・・・・・・・・・ふぅん」
「あんなに好きになってくれるなんてなかなかないからな。しかもあんなに綺麗な子に」
「そうだね。よかったね」
「ああ」
「付き合ってみたいなら、いいよ。わたしは大丈夫だから」
突然腕を掴まれ、グイと引っ張られた。
「いたっ!」
「いい加減にしろよ、ティファ」
「・・・っ、クラウドこそ何よ。彼女のこと気に入ったなら勝手にすればいいじゃない」
「本気で言っているのか?」
「うん。クラウドがそんなに軽い男だったなんて知らなかった」
「・・・嘘に決まってるだろう」
イライラと眉間に皺を寄せるクラウド。
掴まれていた腕を振り払った。
「嘘。絶対気になってる。あんなに素敵な子だもの。わたしなんかつまらない女って気づいたでしょ。可愛い子ならすぐ興味持って、クラウドだって結局その辺の男の人と一緒じゃない。気が済むまで会って来たら?そのかわり二度とわたしに触らないで」
自分でも何を言っているのかわからない。
頭に血が上って次から次に勝手に言葉が出てくる。
クラウドは口を噤み、冷たい瞳で見返してきた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
張り詰めた空気にお互い黙り込んだ。
「・・・・・・わかったよ。ティファがそう言うなら、本当に会ってくる」
冷えたクラウドの声。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
わたしはベッドから立ち上がると、そのまま部屋を出て扉を閉めた。
寝室からはクラウドのわたしを呼ぶ声もため息も、何も聞こえてこない。
「・・・・・・」
わたしは少し考えて、階下のキッチンへ向かった。
お酒を一杯作り、一人カウンターに座りため息を吐いた。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
最初の、会うことを考えているっていうクラウドの発言。あれはきっと嘘だとわかっている。
でも、最後のはわからない。わたしに呆れて本当に会ってしまうかも。
わざと怒らせるような事ばかりを言って、完全に自分のせい。
あんなに綺麗で可愛らしい彼女にグイグイ迫られたら、クラウドはどうするんだろう。何年も一緒に住んでいる女といるより、刺激的で楽しいよね、きっと。
一方わたしは一人ヤケ酒なんかして、本当に可愛くない。
クラウドだって、何よ。
彼女たちのせいでわたしが今までどれだけ嫌な思いをしてきたか知らないくせに。
あなたに会うために何度店に来たか知ってる?
あなたが勧めたカクテルを何回彼女に作ったと思う?
可愛いと思ったとか、会うことを考えてるとか、何のつもりで言ったの。
嘘だとしてもわたしが傷つくってわからないの?
彼女と頭がぶつかったときの小さく笑うクラウドを思い出す。
ふいに涙がポタリと落ちた。
バカみたい。
わたしも、何もかも、バカみたい。
ふと、目が覚めた。
「ん・・・」
カウンターに突っ伏したまま眠ってしまっていたことに気づき驚いた。
肩には、ブランケットがかかっていた。
(・・・クラウド)
帰ってこないから様子を見に来てくれたんだ。
あんなに怒らせたあとなのに、心配してくれた。
「・・・・・・・・・」
少しだけ、心が解れるのを感じた。
意地になってこのままここで眠るわけにはいかないし、とりあえず、今日はクラウドの隣で眠ろう。
音を立てないよう注意し階段を上がると、寝室から灯りが洩れていることに気づいた。
驚いて扉を開くと、クラウドがベッドの上で起きていた。
わたしが来るのがわかっていたみたいな顔をしていた。
「おかえり」
クラウドが掛けてくれたブランケットを握りしめた。
待っていてくれたの?こんな遅い時間なのに。
いつ部屋に戻ってくるかもわからないのに。
「クラウド・・・・・・」
「ごめんな」
クラウドの謝罪に、一気に涙が溢れた。
・・・やっぱり、ちゃんと素直になろう。
嫌だってちゃんと言えばいいんだよね。
「・・・・・・・・・わたしも・・・ごめん、なさい・・・」
ポタポタ涙を流すわたしにクラウドが困ったように笑う。
手招きされたから素直にクラウドに近づくと、手を軽く引っ張られクラウドの目の前に座らされた。
「・・・・・・・・・」
両手を繋いで向き合った。
俯いたままのわたしの顔を覗き込んでくるクラウド。
「ティファ・・・・・・俺のこと、好きか?」
「うん」
また涙が溢れてくる。
「なら、ちゃんと嫉妬しろよ」
「・・・・・・」
「俺は、悲しかった」
「うん・・・」
「簡単に身を引こうとする。俺への気持ちはその程度なのか?」
「そんなこと、ない・・・」
「ティファは昔から・・・そうだ」
「・・・・・・・・・」
思い当たることがいくつもあって、黙り込んだ。
突然、クラウドがキスをしてきた。
唇が触れ合い、一度離れると再び重なる。
長く始まるキスにまた涙が流れた。
「・・・ティファ。今日は、お仕置きだな」
二人とも裸になってベッドの上で抱き合った。
座ったクラウドの上に跨がり、わたしは首すじを滑るクラウドの唇にうっとり目を閉じていた。
「練習だ、ティファ。言いたくて言わなかったこと、全部言え」
「・・・全部、って?」
「嫉妬してくれたんだろ?ならあるだろ、さっきまで隠してたこと」
わたしは目を開けた。
しばらく胸の中で燻り続けていた気持ち。
「・・・・・・嫌だったの。彼女が何度もクラウドを探しにお店に来たこと」
「そうだったのか」
「クラウドが勧めたお酒を何度も注文されるのも、作るのも」
「うん」
「毎回お洒落して来て、あの子がクラウドを見つめていたこと」
「うん」
「クラウドがあの子のこと、いい子だって言ったこと」
「・・・うん?」
・・・覚えてないの?
「クラウドが小銭拾ってあげたこと、頭ぶつけて笑いかけたこと!」
「いててて!!」
ムカムカしてきてクラウドの両頬を思い切り抓った。
「・・・・・・あの子が、クラウドを好きになったこと」
ふいに力が抜けて、パタリと腕を落とした。
「全部、イヤ」
「うん・・・。初めからそう言ってくれればよかったんだ」
両頬を赤く腫らしたクラウドが、俯いて落ちてきた髪を耳にかけてくれた。
「あと・・・クラウドがあの子を可愛いとか、会おうとしてるとか言ったこと」
「あれは全部嘘だ。わかるだろ」
「すごく・・・・・・嫌だった」
「そう・・・だよな。悪かった」
「・・・可愛いって思うのは・・・しょうがないけど。せめて、言わないでよ」
暫しわたしを見つめるクラウド。
「わかってないみたいだから、言ってやろうか?」
「え?」
「あのな。ティファの方が可愛い」
「え・・・」
「ティファの方がずっと綺麗だ。その瞳の色も、髪の色も。目の形も鼻の形も、唇の形も。全部ずっとティファの方が俺の好みだ。声だって仕草だって、ティファが一番、可愛い」
「・・・・・・・・・」
突然のべた褒めに言葉を失った。
なんとも言えない恥ずかしさに頬が熱くなる。
「・・・ウ・・・ウソばっかり」
「もっとあるぞ。言おうか?」
「も、もういい」
熱くなった頬を両手で覆った。
「ティファはわかってないからな」
「きゃ!?」
突然押し倒され、思わず悲鳴を上げた。
「言ったろ。今日はお仕置きだって」
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長くなってきたのでここで一度切ります。
中学時代、高校時代、大学時代、みたいに普通の恋愛経験を積んできていない二人だからそれはそれは不器用なんじゃないかなーと愛おしいです。
体が大人でも心の恋愛経験値は中学生くらい?
だからクラティはこんなに可愛いのかしら(´ε`*)
ティファもクラウドに負けず劣らず難しいところありそうですよね。
クラウドも大人になってティファの困ったちゃんが出たときに対応できるようになってるといいなと思う。
さー次回、素直に嫉妬しなかったティファにクラウドがお仕置きです(笑)
お仕置きって、どっちがしても萌えるなグフフ☆
↓管理人のヤル気が出ます↓ お返事はMEMOにて
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