熱の在り処 (中編その2)

クラウドが長期の配達に出発してから今日で6日目。
こんなにクラウドが家を空けることは例の家出事件以来初めてのことで、覚悟はしていたけれど、やはり寂しさがつのってきた。
あと数日で帰ってくる。
それがわかっているから、先に何も見えなかったあの頃に比べればどうってことないはずなのに。
ただただ、毎日触れていたぬくもりがないだけで、こんなに気持ちの安定が崩れるなんて。
一人きりで眠る夜に、否が応でもあの頃を思い出してしまい、無性に会いたい気持ちが込み上がる。

今は電話をかければ、もちろんちゃんと出てくれる。
でも、朝から晩まで長距離を移動しているクラウドに、寂しいからという理由で気軽に電話をする気にはなれなかった。

「ティファ、クラウドがいなくて寂しいね」

よほど寂しそうな顔をしていたのか、店の手伝いをしていたマリンがエプロンの裾を引っ張りながら顔を覗き込んできた。
慌てて笑顔を作った。

「うん、でもホラ、あともうちょっとで帰ってくるから。はい、これ3番テーブルに運んでもらえる?」

「はーい」

子供達に気遣われるほど顔に出ていたなんて情けない。
しっかりしなくちゃ。
奥のテーブルで注文を受けるデンゼルに目をやる。
ここ数日なんとなくつまらなそうにしているデンゼルだって寂しいにきまっているのに、文句一つ言わずに頑張っているんだから。

 

 

午後11時半。

(そろそろ掛かってくるかな)

子供達が寝て店の片付けも終わり、こちらにゆとりができるこの時間を見計らっていつもクラウドは電話をくれる。
シャワーにもいけず、なんとなく時間を潰しながらコール音を待つ。

 

 

11時45分。

まだかな。待ちながら、久しぶりにお酒でも飲んじゃおうかな。
さっぱりしていて、ちょっと甘いものが飲みたいかも。

簡単にピーチフィズを作ってカウンターに腰掛けた。

(綺麗な色・・・・・・)

ピンクでもない、オレンジでもない、不思議な色。

昔、旅の途中に皆で酒屋に入ったときのこと。
このカクテルを注文し飲んでいたら、クラウドがじっとこちらを見ているのに気づいた。

「どうしたの?」

問うと慌てて視線を逸らした後、咳ばらいして

「いや・・・・・・似合うなと思って」

「何が?」

「その酒の色。ティファらしい」

こんな女の子っぽい色がわたしに?
「ティファなら大丈夫だ」
こんなセリフを何度もクラウドの口から聞いていて少なからず傷ついていたから、そのときは意外で、嬉しかったのを覚えている。

 

 

「クラウド・・・・・・」

カウンターに突っ伏し、思わず呟いた。

会いたいな。
早く帰ってきて欲しい。
なんだか弱くなっちゃったな、わたし。
そう思いながら、カクテルに口をつけた。

 

 

12時15分。

2杯目のカクテルも飲み終わってしまった。

(・・・・・・もしかして寝ちゃったかな)

長距離の移動は疲れるものだ。
寂しくても、責めるわけにはいかない。
諦めて、シャワーを浴びに浴室へ向かった。

ほろ酔い加減も手伝って、風呂上がりにもう一杯作ってしまったカクテル。
携帯を確認したが、着信はなし。

(たまにはいいよね。電話がなかった分、自分にご褒美)

一人言い訳をして一気に飲み干すと、寝室へ向かった。

自室のベッドに体を滑り込ませると、ひんやりとした感触。
もう一度、携帯を開いた。
もちろん着信はなし。

「はぁ・・・・・・」

やっぱり寂しい。
声さえ聞けずに一日が終わってしまった。

電話、しちゃおうかな。

・・・・・・きっと疲れて眠っているはず。
やっぱりやめよう。

「・・・・・・・・・・・・」

思い立ったように体を起こすと、足を忍ばせてクラウドの部屋へ向かった。

留守の間に片付けたから、いつもより整頓された部屋。
入ったとたん、クラウドを思い出させる匂いがほのかに漂う。
そっとベッドに潜り込んだ。
毛布にくるまると、思わず目を閉じた。
いつもの匂いに包まれて、近くにクラウドがいるみたいだった。
男っぽくて、色気のあるクラウドの肌の香り。
香水でもないし、ボディソープの香りでもない。
匂いを嗅ぐだけでうっとりしてしまう。
これがフェロモン?なんて思う。

一緒に思い起こされるのは、クラウドとの夜の行為。

そういえば、この前電話で「抱きたい」って言われたっけ。

「・・・・・・・・・・・・」

目を閉じたまま、思い出す。
クラウドは、たくさんキスをしてくれる。
腕を体に絡めて、力強くわたしを組み敷いて。
「好きだ」とか「愛してる」とは囁いてくれないけれど、それを言えなくて代弁しようとしているような、濃厚な口づけ。
唇が離れる合間合間に、熱に浮かされたような瞳で覗き込まれ、クラウドの情欲の強さを思い知らされる。
また、そんな瞳を見るとそれに感染するようにこちらもどんどん高められてしまうのだ。

(やだ・・・・・・こんなこと思い出して・・・。酔ってるのかな・・・・・・)

一つ年上のお隣さん。
少し背が小さめで無愛想で。
あの頃は、こんな関係になるなんて思ってもいなかった。
思い出す度に、とても不思議な気持ちになる。
あのクラウドと・・・・・・わたしこんなことをしているんだ。

頬が火照ってくるのを感じる。
口元まで毛布を引き上げて、体を丸めた。

行為のとき、わたし達はあまり喋らない。
二人とも精一杯で、会話をする余裕がないんだと思う。
お互いの名前を呼ぶばかりで、ひたすらに肌を合わせた。

「ティファ・・・・・・」

熱い吐息と一緒に何度も名を呼ばれる。
それを耳元で聞くだけで、体の芯が甘く疼く。
好きだって気持ちが溢れて、涙が滲んだ。

「クラウド・・・・・・」

わたしも名前を呼び返すことしかできなくて、必死にクラウドの背中に手を回ししがみついた。
クラウドの胸元の香りに包まれながら、貫かれた瞬間――――

 

 

 

ドクンッ

 

胸に甘く深い衝撃。
切なくて、胸を抑えた。

早く帰ってきて。
そして、またわたしを抱いて。
とても、とても幸せだから。

 

ピロリロリン♪

 

メール着信音が突然鳴った。
ビクリと体が跳ね、心臓がドキドキした。
ぎくしゃくと携帯を開く。

[ 起きてる? ]

クラウドからだった。
ひと呼吸置いてから、電話を掛けた。

『起こしたか?』

待ち望んでた、甘い低い声。 思わず胸がときめいた。

「う、ううん・・・・・・起きてた」

『本当に?』

「うん」

『・・・ならよかった。こんな時間にごめんな』

「ううん、大丈夫・・・」

『何してた?』

ギクリとした。
何もやましいことはないのに、なんだかそわそわしてしまう。

「ええと、寝ようと布団に入ったところ」

クラウドの・・・とは言えなかった。

『そうか・・・・・・』

「クラウドは?寝るところ?」

『いや、実は・・・・・・もう一眠りしたんだ。9時くらいかな・・・疲れたから早めに宿に入って少し横になったら、そのまま』

「そっか、やっぱり疲れてるよね。また眠れそう?」

『それが、無理そうだ』

「うーん・・・・・・困ったね。ちゃんと寝ないと体調崩すよ」

『ティファのせいでもう眠れない』

「ええ?」

ずいぶんな言い掛かりだ。
反論しようと口を開いたとき、クラウドが苦しそうな声で言った。

『またティファの夢を見たんだ』

「・・・・・・・・・」

ドキリと胸が鳴る。
でも・・・「また」?
そんなこと前に言ってたかしら・・・・・・

『寝る度にティファの夢を見る』

「・・・・・・そ、そうなんだ」

クラウドが?
意外で嬉しくて、頬が火照る。
照れ臭くてなんて返せばいいかわからない。

『毎晩、夢でティファと・・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・してるんだ』

数秒考えた後、顔から火が出た。

「っや・・・!やだ、クラウド!」

クラウドがそんな夢を見ているなんて思いもよらなくて、しかもそんなことを突然告白されて、頭が混乱する。

『夢だけじゃない、昼間だってティファのことが頭から離れない。もう・・・・・・どうにかなりそうだ』

「ク・・・・・・クラウド・・・・・・」

目を瞬いた。
どうしよう。
嬉しいけれど・・・なんともいえない恥ずかしさがそれを上回る。
顔と頭に血が上ってくる。
わたしは何を言ったらいいんだろう。
クラウドがこんな告白をしてくれているんだから、わたしも正直に言うべきなのかも。

「あ、あのね、クラウド」

『・・・ん?』

「ゆ、夢には見ないけど・・・・・・わたしも似たようなもの・・・なんだよ。今も・・・・・・クラウドのベッドにいるの」

『・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・も、もしもし?」

『・・・・・・・・・・・・興奮する』

「えぇ!?」

『そこで何してたんだ?』

「何って・・・・・・クラウドのこと思い出してた、だけ」

『どんなときの?』

「・・・・・・・・・」

思わず口を噤んだ。

『するときはいつも・・・・・・・・・そこ、だよな』

「・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・なぁ、そこで何してたんだ?』

何かを期待しているような響き。
わたしが切なくなって、一人で・・・・・・なんて思ったんだろうか。
クラウドのなんだかいやらしい口調に、少しイライラしてきた。

「別に何も・・・してないってば」

『正直に教えてくれ。何、してた・・・・・・?はぁはぁ』

ダメだ、この人。

「何考えてるの?もう!クラウドの変態!!」

力いっぱい通話ボタンを切った。

「バカ!変態!」

クラウドのベッドから飛び起きると、プンスカしながら自室へ戻った。

 

10分後、メールがきた。

[ ごめん。今、どうかしてるんだ。許してくれ ]

「うーん・・・・・・・・・」

正直、気持ちはわからなくもない。
女のわたしでさえあんな風に思い出してしまうくらいだから、男性であるクラウドは、もっと・・・なんだろう。
だから、許してあげることにした。

 

 

 

[ うん、いいよ。ちゃんと寝てね。おやすみなさい ]

「はぁ・・・・・・」

怒らせてしまった。
変態とまで呼ばれた。
・・・・・・あたり前か。

でも、しょうがないじゃないか。
ついさっき見ていた夢の内容は、俺に会えなくて寂しくなったティファが俺のベッドで、ひとりで・・・・・・・・・。
その映像が長々と続いたんだ。
ゆっくり自分の指を沈み込ませて、動かして。
切なげに俺の名を呼んで。
ずいぶんと、興奮した。
俺はそれを陰から見ていて、我慢できずに飛び出してそのまま・・・・・・というところで目が覚めた。

たまらず連絡をしたら、今俺のベッドにいると。
誰が俺を責められる?

・・・・・・・・・・・・あんなこと、実際ティファはしているのかな・・・・・・・・・・・・

我知らず考え始めて、また俺は泥沼にはまっていった。

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

ついにはぁはぁ言っちゃったクラウド(笑)
最初、酔った勢いでクラウドとエロい会話をさせるためにティファにお酒を飲ませたんだけど、クラウドが変態すぎてティファが怒ってしまいました。
書いてるうちにストーリーが変わっていくのも楽しいな♪
でも電話でエロスな会話をしちゃう二人もやっぱり書いてみたい。どうしよかな。

 

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