熱の在り処 (中編その3)

また、夢を見た。
もちろん、ティファの。
あたりまえだ。寝る前に散々ティファのことを考え、妄想をしたんだ。
ただ、ティファを怒らせたばかりで後ろめたい気持ちがあったのか、内容はいやらしいものではなかった。
どこかで一緒に食事をしながら、とりとめのない会話をしていた。
ティファが楽しそうに喋るのを、俺は「可愛い」を心の中で連呼しながら聞いていた。
ただただ、そんな夢。

本当に、バカみたいにティファのことが好きなんだな。

目が覚めてから、そう思った。
これほどまでに心が一直線にティファに向かっていた時期はあっただろうか。

・・・・・・平和になったって、ことかな。

そう思い至って、思わず顔が綻んだ。
そうだ。俺はいままでにないほど、平穏に暮らしている。
不安や脅威に晒されず。
仕事をこなして、家に帰る。愛しい人と、可愛い子供達が待つ家に。
ただそれを繰り返す毎日がどんなに幸せなことか、俺はきっと誰よりも知っている。
そんな中で、やっと真っ直ぐ向き合ってゆっくりと愛を育み始めた俺とティファ。
それと同時に、強い欲望も生まれた。
この気持ちも、自然なことなんだ。きっと。

翻弄されていた感情を分析し受け止めたことで、なんだか今日はあまり過激な妄想はしないで済むような気がした。
ぜひ冷静を取り戻してから帰りたい。
またティファを怒らせるような失敗をしないように。

 

 

昼下がり。
腹が空いたので通りすがりの町のカフェに入った。

注文の品を待っている間、斜め前のテーブルに座った二人組の若い男の会話が耳に入ってきた。

「んで、例のラブホに行ったらさ・・・」

ピクリ。

思わず片耳が動いた。

ラブホ・・・ラブホテル。興味はあるが、行ったことはない。
エッジでも最近、繁華街の路地裏にできたらしく利用時間と金額の記載された張り紙を見掛けた。
とりあえず、男女が中でよろしくやる場所であることはわかる。
が、それ以上のことを知らないため思わず耳が大きくなった。

「ベッドの横にでかい鏡がついてるから見ながらできてさ・・・」
「おもちゃが使い放題で、彼女イキまくっちゃって・・・」
「やっぱ音を気にしなくてすむからいいよ。家だとさぁ・・・」

(かか、鏡!?見ながらって・・・・・・見ながらって!?)
(おもちゃ!?おもちゃで女がイク?何なんだ・・・・・・おもちゃって)

聞こえてくる会話に思考が追いつかなかった。
だがしかし、わからないなりにも、なんとも言えない興奮が湧き上がる。

(ティファと・・・・・・鏡を見ながら・・・・・・)

始まった。
また始まってしまった。
でも、止められない。

 

 

恥ずかしがるティファを後ろから抱きながら、鏡に向かって足を開かせる。

「気持ちいいとこ・・・・・・ここ、だろ?」

鏡に映るティファの体を確認しながら、触っていく。

「やだ・・・・・・やめて、クラウド・・・・・・」

「本当は嫌じゃ・・・ないだろ」

どんどん激しくなる指の動き。
ティファが肩にしがみついてくる。
ティファの喘ぎが高くなった頃、「おもちゃ」を手にする。(※知識がないから形状などはモヤの中)
それを使うと・・・

「あっ・・・・・・!ダメ!ダメ!」

身を捩るティファ。

「だめ・・・・・・クラウド・・・!イっちゃ・・・あぁーーー!!」

背中を弓なりに反らせて悲鳴をあげるティファ。
かまわず俺は続ける。

「やめ、て・・・もう・・・・・・あ、あ、あああ!」

再び震えるティファの体。
鏡に晒したティファのあの部分は、見たことないほどぐっしょりと濡れていて・・・・・・

 

 

 

つつ――・・・・・・

「!!」

とっさに鼻を押さえた。
・・・・・・鼻血だ。

(マズい・・・・・・)

慌てて紙フキンで拭う。
近くのテーブルではラブホテルの話題。その横で鼻血を垂らす一人の男。
誰かに見られたらどうする。
・・・・・・最低だ。

ああ、でも、なんていやらしい場所なんだ。
正直、ティファと行ってみたい。
だが・・・ダメだろうな。

「なんだか、そういうのって・・・・・・違う」

きっとティファはそう言う。
その気持ちは俺だってわかる。
わざわざ金を払って、さぁと言わんばかりに入り時間内に終わるように行為を始める。
確かに、違うよな。
でも、声も音も気にせず、二人きりでおもいきり愛しあえるなら・・・・・・一度くらい、いいじゃないか。
そして俺は、ティファをイカせたことが、実は・・・ない。
男としてこれは辛い。
気にする俺に、
「そんなの重要なことじゃないの」
ティファは幸せそうな顔をしてそう言ってくれた。
でも、やっぱり男としては・・・・・・。
そこでなら、ゆっくりじっくり頑張れるような気がした。
いざとなればその「おもちゃ」というモノもあるようだし・・・ティファが嫌がらなければだけど。
誘ってみようかな。
・・・いや、無駄だ。ティファがそんな場所に行くはずがない。
でも、良い所を伝えてなんとか説得できないだろうか・・・

ああ、もうダメだ。
今日も一日、鏡やおもちゃのフレーズで、あらぬ妄想をし続けるんだ。
どうしてくれるんだ。
お門違いだとわかりながらも、二人組の男に恨めしい視線を送った。

 

 

 

案の定、頭の中で俺は一日中ティファを抱き続けた。
もちろん、鏡の前で。
ありとあらゆることをティファに施して、思い切り突き上げていた。
鏡越しに見る大きく揺れる胸、何度もあがる甘い悲鳴。
ティファの恥ずかしがることを、たくさん、した。

 

夕刻、ふいにバイクを止めた。
ゴーグルを外して佇む。
朱く染まった遠くの空を眺めた。

(俺は頭がおかしいんじゃないだろうか)

本気で思った。

あまりにひどい。
妄想するにもほどがある。
普通の男は、恋人にしばらく会わないだけでここまでなってしまうものだろうか。
・・・・・・ならないよな。

「はぁ・・・・・・」

長くため息を吐いた。
冷静になれ。
もう、やめるんだ。
しばらくティファのことを考えることはやめよう。

そう心に決めたとき、携帯が鳴った。

表示された文字は、バレット。
怪訝な顔をして、通話ボタンを押した。

「はい」

「おぅ、出たな!バレットだ。俺の休みいっぱいマリンとデンゼルを旅行に連れてくからな!伝えておけよ、じゃあな!」

「ま、待て待て。いつだって?あんたの休みってのはいつだ?」

「28日から一週間だ。油田見学したあとゴールドソーサーやら色々連れてってやるって言っとけ!朝迎えに行くからよ。忙しいから切るぜ。じゃあな!」

ブツ。ツー・・・ツー・・・

「・・・・・・・・・」

相変わらず乱暴な電話だ。
しかし・・・・・・これを聞いた瞬間、恥ずかしながら一番に頭を駆け抜けたのはティファとのめくるめく・・・・・・

頭をぶんぶんと振った。
今やめると心に決めたばかりじゃないか。

だが・・・・・・。
子供達はもう大きい。
わからなくたって、音も声も一度だって聞かせるわけにはいかない。
だからいままでティファと体を重ねたのは、二人が学校で俺がオフな日や、揃って友達の家に泊りに行った日など、家に子供達がいないタイミングだった。
もちろん、なかなか機会はない。だから一緒に暮らし始めてからずいぶん経つのに、経験が増えないのだ。
一度、どうにも我慢できず二人が寝静まったあと息も声も殺して愛し合ったが、終始二人共ヒヤヒヤしていたのを思い出す。
「やっぱり子供達がいるときは・・・やめようね」
翌日、ティファが提案した。俺もそれに頷いた。冷静でいられるわけないのに、音も声も抑えるのはやはり難しい。
必死に声を抑えるティファは、なんとも煽情的ではあったけれど・・・・・・。

そして、俺は今こんな状態だ。
28日といえば、俺が帰宅して2日後。
バレットからのこの申し出は、天使の誘いか悪魔の誘いか。

「はぁ・・・・・・・・・」

一週間も、ティファと二人きり・・・・・・。
どうしても期待に震える胸から、今日何度目かわからない、長いため息を吐いた。

 

 

 

宿をとり、夜中ティファの手が空く頃合いを見計らって電話をかけた。

「ティファ。今日バレットから連絡があった」

『そう。何だって?』

声色を伺うが・・・・・・よかった、昨日の怒りはもう残っていないみたいだ。たぶん。

「来週から一週間、マリンとデンゼルを旅行に連れていってくれるらしい。油田見学やらゴールドソーサーやら、色々考えているみたいだ」

『あら、楽しそうね。二人とも喜ぶね!』

「ああ、そうだな」

『明日の朝、二人が起きたら伝えるね。いいなぁ、久しぶりにわたしも旅行したいな。わたしもついて行っちゃおうかな』

・・・・・・ズキ。
ティファに俺みたいな発想は全くないのか?
二人きりになれる、という。
正直、少し傷ついた。

「・・・・・・・・・」

『なんて、ダメだよね。冗談よ。クラウド、今どのあたり?』

「・・・・・・ロケット村の近くだ。近辺でいくつか依頼が入ったが、3日後には帰れると思う」

『うん、わかった・・・気をつけてね』

「ああ・・・・・・」

『じゃあ・・・・・・おやすみなさい』

「・・・・・・・・・」

『クラウド?』

「・・・なぁ、ティファ」

『ん?』

「俺は・・・・・・楽しみだ」

『・・・・・・何が?』

「二人きりになれるのが」

『・・・・・・・・・』

「おやすみ」

ピッ。

返事を待たずに電話を切った。

「はぁ・・・・・・・・・」

ベッドの上で脱力した。
何で言いたくなってしまうんだ。
昨日あれだけ怒らせたばかりなのに。
最後のティファの沈黙。どんな思いだったんだろうか。
またいやらしいこと考えてるって、呆れたか?

ティファ・・・・・・。
無性に切なくなってきた。
俺ばっかりなんだよな、こんな風になっているのは。
気分が沈んだせいで、なんだか今日はもう妄想せずに済みそうだ。

「・・・・・・・・・」

ぼんやりしていると、数分後メールが届いた。
ティファからだ。

[ わたしも ]

たった一言。
だけど、それだけで口元がゆるみ、胸が踊った。
俺も結構、単純だよな。

また、今日も夢を見てしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

ティファはおもちゃは絶対ダメだと思います(笑)
さてさて、次回は遂にクラウド帰宅の予定です。ティファとイチャイチャできるといいね、クラウド。
ところで、裏小説を始めてから、拍手の数とカウンターのまわりが凄いのです。ありがとうございます!
拍手メッセージもたくさん頂いて、本当に本当に嬉しいです!
メッセージを読んで嬉しくなっちゃって、布団に入ってから午前3時までスマホで小説を作るって日々が続いてます。
メッセージは原動力そのものです。ありがとうございますー!!

 

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