熱の在り処 (中編その4)

「今ジュノンに着いた。8時には帰れると思う。店は定休日だよな?夕飯は先に食べていていいからな」

『きっと二人とも、食べずに待ってるって言うよ』

そう言うデンゼルとマリンを安易に想像できて、思わず口元をゆるめた。

「そうか?じゃあ・・・・・・任せる」

『うん。久しぶりだもの、みんなで食べよ。ねぇ、何か食べたいものある?』

「ああ、ある。ティファの手料理」

『・・・・・・手料理に決まってるじゃない。出前なんてとらないわよ』

クスクス笑う声。

「もう一週間以上食べてないんだぞ。ティファが作るならなんでもいい」

『もう、そういうのが一番困るんだから』

そう言いながらも嬉しそうなティファの声。 でも、それが本心だ。旅先での飯はどれもいまいちで、ティファの手料理が恋しかった。

『じゃあ・・・・・・待ってるね。気をつけてね』

「ああ、大丈夫だ。もうすぐだな」

『うん、もうすぐだね』

「じゃあ・・・・・・後でな」

『うん』

ティファの穏やかな声を最後に、携帯を閉じた。
フェンリルに腰掛けながらほっと息をついた。

やっとこの大陸に帰ってきた。
一人きりの一週間以上の旅は、やはり長かった。
また、ティファ恋しさから生まれる妄想に悩まされながらだったから、尚更だ。
少しでも早く帰ろう。
フェンリルに跨がると、ゴーグルをかけ一気にアクセルをひねった。

 

 

久しぶりのクラウドの帰宅を前に、子供達は先程からそわそわしていた。
マリンは「クラウドまだかな?」を繰り返し、デンゼルにいたっては何度も外へ様子を見に行っていた。
そんな微笑ましい様子に目を細めながら、ティファは夕飯の準備を進めていた。
前にクラウドが気に入っていたグリルチキンの香草焼き、一から丁寧に作ったコーンポタージュ、ベーコンポテトのガーリックバター炒めに生ハムのサラダ。キーマカレーのミニピザも作った。
チキンに添える温野菜も準備できたし、こんなものかな?
どれもクラウドが好きなもの。
嫌いなトマトは、特別に今日はメニューに入れないでおいてあげた。
あとは、熱々が出せるようにクラウドが帰ってくる頃に焼くだけ。
ティファは満足気に頷くと、手を洗いカウンターを出た。

「マリンもデンゼルも、宿題は終わったの?」

「あたりまえじゃん!今日は遅くまでクラウドと遊べるようにとっくに終わらせたよ」

デンゼルが得意気に言う。
ティファは眉尻を下げた。

「いいけど・・・・・・クラウドは疲れてるだろうから、ほどほどにね」

「ああ、そっか・・・・・・」

つまらなそうに口を尖らすデンゼル。

「明日は休み?」

「うん、仕事は入れてないって言ってたよ」

「やった!!じゃあ明日めいっぱい遊んでもらうから、今日は“ほどほど”にするよ」

無邪気に飛び跳ねるデンゼル。

「わたしも明日、クラウドにどこかに連れて行ってもらう!」

「ふふ、頼んでみたら?」

「うんっ」

マリンも顔を輝かせる。
子供達は本当にクラウドが大好きなんだな。

(大忙しね、クラウド)

ティファは、休む暇のなさそうなクラウドを心配しつつも、微笑んだ。
もうすぐ帰ってくるクラウドに、それが楽しみでしょうがない子供達。そして明日は家族揃って過ごせる。ただそれだけなのに、とても幸せだと思った。

 

 

家に着く頃、すでに辺りは暗くなっていた。
フェンリルのエンジン音を聞きつけたのかセブンスヘブンの前に停車する少し前に、デンゼルとマリンが店の扉から出てきた。
二人とも満面の笑みだ。

「おかえり!クラウド!」
「おかえりなさい!」

二人の笑顔につられるように、こちらも自然と笑みが大きくなる。

「ああ、ただいま」

ゴーグルを外すと、二人の後ろからティファが出てきた。

「おかえりなさい。お疲れさま」

優しいティファの笑顔。

「ただいま」

こうやって揃って出迎えられると、なんだか照れ臭い。
久しぶりに見る三人の笑顔。
家族が帰宅をこんなに喜んでくれる。
幸せなことだよな。とても。

 

 

 

「すごいご馳走だな」

テーブルに並べられた料理の数々に目を丸くした。
しかも俺の好きなものばかり。

「お腹空いたでしょ?いっぱい食べてね」

店を運営しているティファは、このくらい難なくこなせるんだろうな。
やっぱり俺は、幸せ者だ。

「クラウド、ティファね、クラウドと電話してからずっと嬉そ〜にお料理作ってたんだよ」

「マリン、このフォークとナイフ並べて」

「はーい」

ティファは持ってきたそれをとっさにマリンに渡す。
そのままキッチンへまた何かを取りにいった。
・・・・・・今のは絶対照れ隠しだ。
俺はこっそり笑いをこらえた。

夕飯を食べながら、俺はデンゼルとマリンの質問攻めにあっていた。
ウータイはどんなところなのか、新しいモンスターはいたか、いつかそこに連れていってもらえるのか。
弾丸のようにしゃべるデンゼルと、それに負けじと頑張るマリン。
対応しきれずティファに救援の視線を送ると、にこにこと笑顔を返されるだけだった。
ティファはこの光景を楽しんでいるようだった。

夕食後は手を引かれるようにしてデンゼルと風呂に入った。

「なぁ、絶対今度ウータイに連れて行ってくれよ。約束だからなクラウド」

「ああ、わかった。ユフィも喜ぶだろう。ただ皆で行くとなるとシドに飛空艇出してもらわないとな」

「シエラ号!?やった!!」

湯船の中で盛大な水飛沫を上げてガッツポーズをするデンゼル。

「なぁなぁ、いつ行く!?」

「まぁ待て。その前に、明後日からの旅行があるだろ?まずそっちを楽しんでこい」

「ああそっか。やべー楽しみなことが多すぎる」

ニヤニヤしながら湯船に沈むデンゼル。
湯の中でブクブク泡を出しながらニヤけているデンゼルを見て、思わず声を出して笑った。

 

 

 

「クラウド、明日は休みなんだよな?」

午後11時を過ぎてもなかなか寝ようとしない子供達を子供部屋まで送りにきた。が、ここでも足止めをくらっていた。

「ああ、そうだ」

「じゃあさ、チョコボファームに連れて行ってくれよ。久しぶりに乗りたいんだ」

「あ!わたしも行きたい!連れてってクラウド」

マリンが腕に飛びつく。

「チョコボファームか・・・・・・結構遠いな。フェンリルには一人ずつしか乗せてやれないから、レンタカーでも借りるか」

「「やったぁ!」」

やれやれ、明日もまた大移動だ。
でも二人の嬉しそうな顔を見ると、それも悪くないと思える。

「じゃあな、遅いからもう寝ろよ。おやすみ」

「おやすみ!」
「おやすみなさい」

色違いのパジャマを着たデンゼルとマリンがベッドに入るのを見届けると、部屋の電気を消しドアを閉めた。

階下に降りると、ティファがキッチンで片付けをしていた。
俺の姿に気づくと、労わるような笑顔を向けてきた。

「寝た?」

「ああ。やっと今ベッドに入った。明日はチョコボファームまで出掛けることになった」

ティファがびっくりして口をあけた。

「・・・大丈夫なの?」

「ああ、俺は大丈夫だ」

ティファは眉尻を下げた。

「休む暇ないね。明日、わたしが止めようか?」

「いや、いい。二人共嬉しそうだったし」

ティファの優しい笑顔を見て、思わず微笑み合う。
ティファに向かい合うようにカウンターに腰掛けた。

「何か飲む?」

「うん、じゃあ・・・さっぱりしたものを頼む」

「はい」

冷蔵庫からライムを取り出しカットするティファ。
用意しているものからするとジンリッキー、かな?今の気分にぴったりだ。
頬杖をついて、ティファを眺めた。

「・・・・・・・・・・・・」

やっぱり、ティファは綺麗だ。
動く度にサラサラゆれる黒髪はカウンターの照明を受けて艶めいていた。
伏せた睫毛は長くて、形のいい唇は自然な赤に色づいていて。
すっきりした顎のラインに思わず見惚れた。

帰ってきてから、まだ手すら触れていない。
子供達のおかげで影を潜めていた欲望が、じわじわ顔を出し始めるのを感じた。

「はい、どうぞ」

差し出されたグラスを受け取った。

「ありがとう。ティファは飲まないのか?」

「もちろん、飲むわよ」

ティファは同じものが入ったグラスを持ち上げた。

「ティファもこっちに来て座れよ」

隣のスツールを叩いた。

「じゃあ、お邪魔します」

ティファはカウンターを回って隣に腰掛けた。

「お疲れさま」

「うん」

チンと軽くグラスを合わせると、一口含み、ほぅと息を吐いた。
そして、そっとティファの手を握った。

「・・・・・・やっと触れた」

ティファがクスリと小さく笑った。

「・・・・・・あのね、さっきマリンがお風呂で、ああいうときはわたし達のことは気にしないで抱き合ったりチュウしちゃっていいのに、って言うの」

思わず酒を吹き出しそうになった。

「できないよね?」

同意を求めるようなティファの笑い顔。

「ああ・・・できない。でも、これからはお言葉に甘えるようにするか?」

「・・・・・・ばか」

「今ここで練習するか?」

「しません」

そっぽを向いて即答するティファ。
でも、頬がほんのり赤い。
まだ酒は回ってないはずだ。

「ティファ」

呼ぶと、こちらを向いたティファと唇を合わせた。

久しぶりのティファの唇の感触。
思わず背中に手を回した。
唇で唇を挟むようなキスでは物足りなくなってすぐに舌が絡まり出す。

「ん・・・・・・」

小さく洩れた声が色っぽくて、一気に俺の欲望に火をつけた。
背中に回していた手を下方へ移動させ、少し覗いている腰元の肌に指を滑らせた。
ティファがくすぐったさに身を捩ると、その手が無意識に胸へ向かった。とたん、ティファが唇を離した。

「だっ・・・・・・だめ、クラウド。今日は疲れてるだろうから、早く寝なきゃ・・・・・・」

どんどん先に進もうとする俺の気迫を感じとったのか、早めの牽制をかけられた。

「疲れてない」

即答する俺にたじろぐティファ。

「つ・・・・・・疲れてるの!明日だってファームまで行くんだから、今日はちゃんと寝よう?体壊しちゃうよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

体のことを気遣うとき、ティファは結構頑固だ。
それに実際、やはり疲れは溜まっている。
ティファの目を見ていると、説得できない気がしてきた。
それに、何といっても子供達が家にいるのだ。暗黙の了解で「しない日」だ。

「・・・・・・わかった。今日はこれを飲んだら寝るよ」

「うん」

いいんだ。
子供達が旅行に出掛ける明後日からは・・・・・・覚悟しろよ。

 

グラスを空けると、揃って階段を上がった。

「おやすみなさい、クラウド」

「ああ・・・・・・おやすみ」

軽いキスをすると、それぞれの部屋のノブに手をかけた。

・・・・・・・・・・・・本当にこのままか?
久しぶりに帰ってきたのに。
あんなに短いキスだけで。

抱きしめているだけでいい、やっぱりもう少し触れていたい。

「ティファ」

ドアを開きかけていたティファの腕を少し強く引く。

「きゃっ。な、なに?」

「その、何もしないから・・・・・・少しだけ俺の部屋に来てくれ」

信じてもらえるとは思わなかったけど、少し迷ったあと、ティファは頬を染めて頷いた。

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

相変わらずダラダラまとまりがなくてすいません。
ところで、お酒の名前がいくつか出てきたけど、ティフィンクーラーって知ってますか?
たぶん紅茶リキュール??だったはず。たぶん。
で、ある日お店の印刷ミスでメニューに「ティファンクーラー」って書いてあったんです。
「もしかしてマスターはクラティ好き!?」なんて妄想もしたけどもちろん聞けませんでした。
その日はそればっか飲みました(笑)そしておいしかった。

 

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