ほんとのところ(中編その1)

 

家族が起きる前に一人キッチンに立ち朝食の準備をしていると、一人で起きてきて「おはよう」を言う前に後ろから抱きしめてくるクラウド。

「おはよ、クラウド」

「おはよう…ティファ」

わたしの髪をクンクンして、はー…と満足気にため息を吐いてからのそのそテーブルに向かう。

コーヒーを淹れて振り向くと、眠そうな目でこちらを見ていたクラウドと目が合い、その目がフ…と細められた。

「なぁに?」

「なんでもない」

クラウドって、すぐ「なんでもない」って言うよね。
でもね。わかってるよ。
私たち、とっても幸せだね。
クラウドも今そう思ってたんでしょ?

クラウドがわたしに真っ直ぐに愛情を向けてくれていることが、クラウドの瞳から声から仕草から伝わってくる。
それがとても嬉しくて幸せ。
たくさんまわり道したから、尚更。


 

でもね。

最近思うの。
少しくっつき過ぎかなって。

くっつき過ぎどころか、隙あらば肌を重ねてしまっていること。
二人とも愛し合い方を覚えたばかりで夢中になっていた時期はあったけれど、それからずいぶんと経つのにクラウドの情熱は落ち着く気配がない。

ベッドに一緒に入れば自然と絡んでくるクラウドの腕。キスが始まればいつだって加速していって戻ってこられない。
一つにならないのは、どちらかの仕事が忙しくて眠る時間がずれるときだけ。
ずれたときでさえ、真夜中に起こされて…なんてこともあった。

クラウドがたくさん求めてくれるのは嬉しい。
嬉しいんだけれど、少し困惑しているの。

これって普通なの?
恋人同士って、こんなに?
こんなにたくさん、いいのかな…?

こんな恥ずかしいこと誰かに相談できるわけもなく、求められたら応えてしまう日々。
だって、わたしだってクラウドが好きで好きで、たまらないから。

「何、赤くなってるんだ?」

「えっ?」

クラウドの向かいに座ってからもぼんやり思考に落ちていたらしく、言われて飛び上がった。

「顔が赤いぞ」

「そ、そんなこと…ないよ?」

「何考えてたんだ?」

「……え、ええと…今日のお店のメニュー、どうしようかなって…」

「……ふぅん?どんなメニューか気になるな」

小さく笑いを漏らしつつコーヒーを飲み、嘘がヘタだなって目で見てくるけれど、それ以上追求してこないクラウド。

「……」

もし、昨日も抱かれていたら、今言ったかもしれない。
わたし達、多過ぎないかな。いいのかなって考えてたって。
朝からとっても恥ずかしい話題だけれど、クラウドとのことだから、クラウドと話すしかないもの。

でも、昨日はお風呂に一緒に入ってもクラウドは何もしてこなかった。
その後も、二人で仲良く眠っただけ。
少しびっくりしたけれど、なんだか新鮮で楽しかったな。
もしかしたらクラウドも同じこと考えてた?
ちょっと、し過ぎだったかなって。

「……まだ赤いぞ。ティファ、本当に何考えているのか気になるから教えてくれ」

「な、なんでもないの。なんでもない」

慌てて席を立ち、もうすぐ起きてくるだろうデンゼルとマリンの朝ご飯の盛り付けに取り掛かった。

「ティファ」

キッチンまで追いかけてきてじゃれるように抱きついてくるクラウド。
ほら、やっぱりくっつき過ぎ。

「もう、なんでもないってば」

「なんとなくわかるぞ。昨日しなかったのが原因か?」

「…!」

その時、タンタンタンとリズミカルに階段を降りてくる音に二人同時に飛び上がって弾けるように離れた。

「おはよー。あれ、クラウドももう起きてんだ」

「お、おはようデンゼル!」

「…おはよう」

「………」

不自然に背を向け合ってキッチンに立っているわたし達にデンゼルが冷ややかな目を向けた。

「まーたイチャイチャしてたんだな。別にいいよ、隠さなくて」

クラウドが身動ぎをした。

「……いいのか?」

「えっ、ちょっと、クラウド…」

「いーよ!パパとママもイチャイチャしてたし、別に普通だろ。変に隠される方が恥ずかしいから」

「………」

「………」

大人二人が何も言えず赤くなっているところに、マリンが跳ねるように現れた。

「おはよう、ティファ、クラウド!わたしはイチャイチャ仲良しのクラウドとティファ、好きだよ!見てると嬉しくなるもん」

「…そうか。ありがとう」

我が家の天使達には敵わない。
うしろでお礼を言っているクラウドに吹き出しそうになりながら、赤い顔を隠すために俯きながら朝食の準備を進めた。

気恥ずかしくて賑やかな朝食の始まり。

うん。クラウドとのことはもうちょっと様子を見てみようかな。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝のティファは可愛かったな。
一人で頬染めてぼんやりしていた。
何を考えていたのか結局わからなかったけれど、昨日、時間はたっぷりあるにも関わらず抱かずに眠ったことと関係がある気がする。

(本当はしたかったのにな)

とか?
ティファがそんな風に思うか?
…ない気がする。

ん?

(したかったのに)

…ああ、そうだ。これだ。
ティファに、そう思わせたい。

今まではそんなこと思わせる暇もない程に毎晩のように求めていた。

酒場の女達の会話によって、もしやティファに嫌がられているのではないかと不安を掻き立てられ、ひたすら我慢してティファの反応を見ようと思っていたが。
逆に、ティファを焦らすつもりで取り組んだ方がいいのかも…。

俄然やる気が出てくるのを感じると、今日も早く帰ろうとフェンリルのアクセルを回してスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。


「ティファ。風呂に行くぞ」

「うん、どうぞ。お湯張ってあるよ」

「違う、一緒に入るんだ」

「えっ、今日も…?」

「ああ」

ほわほわと赤みがさしてくる頬が、今日も可愛い。

「えっと…まだ帳簿付け終わってないの」

「終わるまで待ってる」

「い、いいから!先に入って。ね?」

風呂場の方向にぐいぐい押してくるティファ。

「……わかった」

ティファが帳簿をつけるのは、いつもだいたい10分くらいか。
ちょうどいい。
自分は洗っておき、後から来たティファの体を洗ってやりながら焦らしておいてサッと先に出てしまう作戦で行こう。

「終わったらすぐ来てくれ。待ってる」

「……うん」

 

 

 

 

急いで髪と体を洗い、汗と砂埃を落としていく。
ふぅ、と一息ついて湯船に浸かったとき浴室の扉の向こうにティファがやってきた。

「…クラウド?」

ドキ、と心臓が跳ねる。

「ああ」

「もう出る?」

「……まだだ。入ってきてくれ」

「…うん」

衣服を脱ぐ音。
磨りガラス越しに見える艶かしいシルエット。
思わず凝視していると、カラカラと音を立てて扉が開いた。

白いタオルでは隠しきれない乳房の膨らみが目に飛び込んでくる。

「…っ」

「あ、洗っちゃうから、むこう向いてて」

「あ…ああ」

大人しく従って壁を向く。
ティファはいつだって見せてくれない。
体を洗っているティファをまだじっくり眺めたことがない。
なぜかな、すごく見てみたいと思うんだけれど。ティファはいつだって恥ずかしいの一点張りで…

ん?

「ああ、ダメだ!」

バシャと大きな水しぶきを上げて立ち上がった。

「きゃ!?び、びっくりした…。なに?」

「体は俺が洗う!」

「えっ、わたしの…体…?」

「ああ」

力強く頷く。

「……」

ティファが顔を赤くして目を逸らした。

「……わかった。今は髪洗ってるから…少し待ってて?」

「ああ…」


 

 

 

「はい、終わったよ。」

振り向くと、洗った髪をお団子のように一つにまとめたティファが立っていた。

白いタオルは畳んで棚に置かれていて、恥ずかしげに両腕で隠された胸は潰されて柔らかそうに変形していた。
シャンプーとリンスが流れたあとの肌はぬらりと光っていて、なんとも妖艶に見えた。

「……洗って?」

観念している目で、微笑んでくるティファ。

ゴクリと喉が鳴った。

あれ?
これ…そもそも自分が我慢できる…のか?


 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

やたら息が上がっているのは自分の方だった。
うしろに立ち、耳の後ろから首筋、背中を泡を絡めた指で撫でていく。脇を洗い、そのまま胸へと手のひらを滑らす。
乳房を上下に撫でるように洗い、その先端を摘むように洗った。

「あ、ん…!」

ティファの声が脳天を突き抜ける。

「ティファ…!」

振り向いたティファに激しく口づけた。
温かなティファの舌と自分の舌を絡ませる。

すでにはち切れそうになってしまった自身を、ティファのお尻に擦り付けた。

「や、クラウド…」

「はぁ…はぁ…ああ…」

しゃがみこみ、ティファの足の間に口を近づけると、察したティファの腰が逃げた。

「だめ、まだ洗ってない…」

「今から俺が洗ってやる」

逃げる腰をガッチリ押さえ込んで舌を伸ばした。

「ん…!あああっ!」

ティファの愛液が舌に絡む。
そのぬめりで、可愛い蕾をいたぶった。
たくさん。たくさん。

「いや、いやぁ…クラウド!」

跳ねるティファの体。
泣き出してしまいそうな、ティファの顔。

ああ。ダメだ。
目が回る。
ティファの声を聞いているだけで、もう。

「…クラ、ウド…」

「……!!」

立ち上がると、ティファの肩を掴んだ。

「……よし。洗い終わった」

それだけ言うと、浴室から飛び出た。
もう限界だった。

「………へ…?」

ティファの、今まで聞いたことがないほど間の抜けた声をうしろに扉を閉めると、逃げるように寝室に向かった。


 

 

 

 

 

 

快楽が高まってきたところで、突然クラウドはわたしを残して出て行ってしまった。

洗い終わった、って…。全然洗い終わってない!

あまりにも突然のことで、思わず変な声が出ちゃった…。

じんじんする。身体のあちこちが。
辛くて身を縮めた。

やだ…!
どういうつもりなの、クラウド。
なんでこんなこと…。

胸に手を当て乱れた息を必死に落ち着かせてから、なんとか体を洗うという作業を再開した。

「もうっ、ひどい…クラウド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

寝巻きに着替えるとベッドに飛び込み、頭を抱えて転げ回った。

(ぐあああぁぁ…!!!)

つ、辛い…!
辛い!!

目が血走る。
髪が逆立つ。

すごいぞ、よく耐えた。
奇跡みたいだ。

ああ……ティファ。
あの声。
あの表情。
あの感触。
毎日抱いても足りないわけだ…。
この状況だとよくわかる。

「はぁ…」

まだドクドクと鳴る胸を感じながら枕を抱き抱えた。

いつまでやるんだ、これ…?
かなり辛いぞ。
とりあえず今みたいにティファを焦らして誘われるのを待つ作戦はもう無理だ。こちらの身が持たない。次にティファを触ったらすぐに理性が吹き飛んでしまいそうだ。

よし…これからはティファに触れないようにしよう。絶対だ。


 

しばらくすると、シャワーの音が止み浴室の扉が開く音が聞こえた。
ティファがもうすぐ上がってくる。

どんな顔して待っていればいいんだ?
それより、ティファはどんな顔してる?

そわそわしているうちに階段を上がってくる足音。

一番いいのは…。
赤い顔のティファが入ってきて
「もう、なんで途中で出ていっちゃうの。続き…して?」
という展開。
ティファは嫌じゃないんだと思える。
そうしたらこの辛い我慢期間も終わりだ。

期待に目を輝かせていると。

ドアを開け現れたティファは無表情だった。


あれ?

……お、怒ってる?


寝転がっている俺の横にするりと入ってくると、じとっと見つめてくるティファ。

「……」

言葉を待っていると、ティファは上半身を起こしわずかに顔を近づけてきた。

キスするのかと目を閉じようとした、その時。



「もうクラウドとはお風呂一緒に入らないから」


目を丸くする俺にプイと背を向けるティファ。

「ティ、ティファ。怒ってるのか?」

「怒ってない」

「……怒ってるだろ」

「怒ってない。もう疲れたから寝るね。おやすみ」

「………お、おやすみ」


ティファに触れることもできず、どうしたものか思い巡らせているうちにティファの寝息が聞こえてきた。

そうか。
ティファは焦らすようなことをすると…怒るのか。
覚えておこう。

とりあえず、3日目はミッションクリア…なのか?
なんだか何のためにやっているのか自分でもよくわからなくなってきた。


 

 

 

 

 

 

 

―― 真夜中。

「ねぇ、クラウド。起きて」

「…ん…」

「やっぱり眠れない」

布団の中でそっと脚を絡めてくるティファ。

「ティファ…」

「お風呂の続き…だめ?」

「!!」

飛び起きるとティファに覆いかぶさった。

「だめなわけないだろ?待ってた」

「そうなの?」

「ああ。実は…知りたかったんだ。ティファは嫌じゃないのか?その…毎晩毎晩すること」

ティファが照れて目を逸らす。

「嫌なわけない…だって、クラウドのこと…好きだから」

「ティファ!」

夢中で口づけた。

よかった。
ティファは嫌がっていない。
面倒臭がっていない。
これからは元通り、心ゆくまでティファと愛し合うんだ。

「ティファ…」

「クラウド…好きよ。もっと…して」

 

 

 

 

 

 

――― という夢を見て目が覚めた。

…心が折れそうだ。


 

 

 


 

NEXT

 

 

ほーらこじれてきた。
クラウドがおバカ過ぎですよね、ごめんなさい!

さぁ地獄の4日目が始まりますよぉ!耐え抜けますかクラウドさん!?←フリーザの声で再生してください

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